工事計画の吊り作業でワイヤーロープを選定する際、最も重要なのが「安全荷重」の把握です。 本記事では、クレーン等安全規則・JIS規格に基づいた安全荷重の早見表と、 ロープの種類・選定の基礎知識を解説します。
出典:JIS G 3525 / クレーン等安全規則対象:工事計画担当者・玉掛け作業管理者
📋 目次
安全荷重 早見表
| ロープ径 (mm) | 1本掛け 垂直吊り | 2 本 掛 け (開き角度) | 3・4 本 掛 け (開き角度) | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0° | 30° | 60° | 90° | 120° | 0° | 30° | 60° | 90° | 120° | ||
| 係数 2.00 | 係数 1.93 | 係数 1.73 | 係数 1.41 | 係数 1.00 | 係数 3.00 | 係数 2.90 | 係数 2.60 | 係数 2.12 | 係数 1.50 | ||
| φ 9 | 0.65 | 1.30 | 1.25 | 1.12 | 0.92 | 0.65 | 1.95 | 1.89 | 1.69 | 1.38 | 0.98 |
| φ 10 | 0.81 | 1.62 | 1.56 | 1.40 | 1.14 | 0.81 | 2.43 | 2.35 | 2.11 | 1.72 | 1.22 |
| φ 12 | 1.17 | 2.34 | 2.26 | 2.02 | 1.65 | 1.17 | 3.51 | 3.39 | 3.04 | 2.48 | 1.76 |
| φ 14 | 1.59 | 3.18 | 3.07 | 2.75 | 2.24 | 1.59 | 4.77 | 4.61 | 4.13 | 3.37 | 2.39 |
| φ 16 | 2.07 | 4.14 | 3.99 | 3.58 | 2.92 | 2.07 | 6.21 | 6.00 | 5.38 | 4.39 | 3.11 |
| φ 18 | 2.63 | 5.26 | 5.08 | 4.55 | 3.71 | 2.63 | 7.89 | 7.63 | 6.84 | 5.58 | 3.95 |
| φ 20 | 3.24 | 6.48 | 6.25 | 5.60 | 4.57 | 3.24 | 9.72 | 9.40 | 8.42 | 6.87 | 4.86 |
| φ 22 | 3.92 | 7.84 | 7.57 | 6.78 | 5.53 | 3.92 | 11.76 | 11.37 | 10.19 | 8.31 | 5.88 |
| φ 24 | 4.68 | 9.36 | 9.03 | 8.10 | 6.60 | 4.68 | 14.04 | 13.57 | 12.17 | 9.92 | 7.02 |
| φ 26 | 5.51 | 11.02 | 10.63 | 9.53 | 7.77 | 5.51 | 16.53 | 15.98 | 14.33 | 11.68 | 8.27 |
| φ 28 | 6.38 | 12.76 | 12.31 | 11.04 | 9.00 | 6.38 | 19.14 | 18.50 | 16.59 | 13.53 | 9.57 |
| φ 30 | 7.33 | 14.66 | 14.15 | 12.68 | 10.34 | 7.33 | 21.99 | 21.26 | 19.06 | 15.54 | 11.00 |
※ 本表の数値は 6×37(IWRC)ワイヤーロープ(JIS G 3525:2013)の公称最小破断荷重を基準に、安全率 6(クレーン等安全規則 第213条)を適用して算出した参考値です。
※ 3・4本掛けの安全荷重は、荷重が均等にかかることを前提としています。現場では不均等になりやすいため、実際の使用時は荷物の重心位置を確認のうえ計算してください。
※ 吊角度(開き角度)が大きくなるほど各ロープへの張力が増大します。120°を超える使用は禁止されています(クレーン等安全規則 第219条)。
※ 本表は概算値です。実際の作業では使用するロープのメーカー仕様・試験証明書の数値を必ず確認してください。
Safety Load Basics
安全荷重の計算方法と根拠
安全荷重(Safe Working Load/SWL)とは、ワイヤーロープが破断することなく安全に吊れる荷重の上限値です。 破断荷重をそのまま使用限度にするのではなく、摩耗・疲労・衝撃荷重などに対する余裕をもたせるため、 「安全率」で割った値を使用します。
安全荷重(t)= 破断荷重(t)÷ 安全率(6)× 吊角度係数
吊角度係数 = cos(開き角度 ÷ 2)×(掛け数) ※1本掛け垂直の場合は係数 = 1.0
【根拠法令】クレーン等安全規則 第213条(玉掛け用ワイヤーロープの安全係数)
「事業者は、クレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛けに用いるワイヤーロープの安全係数については、 六以上でなければ使用してはならない。」
(厚生労働省 / 昭和47年労働省令第34号)
吊角度(開き角度)と安全荷重の関係
2本以上のロープで吊る場合、ロープの開き角度が大きくなるほど、各ロープにかかる張力が増大します。 上の早見表の「係数」がこれに対応します。開き角度 60° 以内を目安に計画し、 120° を絶対に超えてはなりません(法令で禁止)。
120°超えは法令違反・破断リスク大
クレーン等安全規則 第219条により、玉掛けワイヤーロープの吊角度(開き角)は 120° 以下と定められています。120° の時点で各ロープ張力は 1本掛け垂直と同等(係数 1.00)まで低下するため、それ以上は急激に危険領域となります。
玉掛けワイヤーロープの種類
玉掛け用ワイヤーロープはその素線の構成(ストランド・より本数)と芯(コア)の種類によって分類されます。 JIS G 3525(ワイヤーロープ)および JIS B 8817(玉掛け用ワイヤーロープ)で規格化されています。
撚り構成による分類
6×37構成(FC / IWRC)
玉掛け用として最も広く使われる標準構成。37本素線×6ストランド。柔軟性が高く扱いやすい。
- 汎用玉掛け・一般揚重作業
- フック掛け・目通し掛けに適合
- JIS G 3525 対応
6×19構成(FC / IWRC)
素線が太く耐摩耗性に優れる。6×37より剛性が高い。比較的荷重が大きい単純な吊り作業に使用。
- 耐摩耗が求められる現場
- 6×37よりやや重い
- JIS G 3525 対応
フィラー形(6×Fi)
ストランドのすき間にフィラー線を入れた構成。6×19と6×37の中間的な特性で破断荷重がやや高い。
- 大型クレーン用玉掛け
- 高荷重作業に適合
IWRC(独立ワイヤロープ芯)
芯にワイヤーロープを使った構成。繊維芯(FC)より破断荷重が約7.5%高く、圧縮変形に強い。
- 重量物吊り・高温現場
- 上記表はこの構成の値
FC(繊維芯)
芯に繊維(麻・合成繊維)を使用。IWRC より柔軟で扱いやすいが、破断荷重はやや低い。高温環境には不向き。
- 中軽量物の一般吊り
- 破断荷重は IWRC の約93%が目安
WRC(ワイヤ芯)
IWRCの一種。側ストランドと同構成の芯ロープを使用するタイプ。大径ロープに多い。
- 特殊大型揚重作業
- 大径・特注仕様に多い
表面処理による分類
素線の表面処理によって耐食性・耐久性が異なります。使用環境に応じて選定します。
- 裸(無処理):一般的な屋内・乾燥環境での使用。コストが低い。
- 亜鉛メッキ(JIS G 3525 めっき種):屋外・塩害環境・水中作業に適合。耐食性が高い。
- アルミ被覆:特殊環境用。化学工場などでの腐食対策に使われるケースがある。
ロープ選定のポイント
工事計画において玉掛けワイヤーロープを選定する手順は以下のとおりです。
① 吊り荷重と吊り方法の確認
まず吊り対象物の質量(t)と重心位置を確認します。 重心が偏っている場合、特定のロープに荷重が集中するため、最大荷重がかかるロープを基準に計算します。 また、掛け数(1本・2本・3本・4本)と吊り方法(目掛け・半掛け・目通し・あだ巻き)を決定します。
② 吊り角度の見積もり
吊り荷のサイズとフックまでの距離から開き角度を計算または見積もります。 安全荷重は開き角が大きいほど低下するため、できる限り60°以下になるようスリングの長さを調整してください。 計算式:
tan(θ/2) = 吊り点間距離の半分 ÷ フックまでのロープ長
θ = 開き角度 ※三角関数表または計算機で算出
③ 表から安全荷重を確認・ロープ径を決定
吊り荷重が早見表の安全荷重以下に収まるロープ径を選定します。 余裕を見て、計算値よりも1サイズ上のロープを選ぶことが現場の慣習です。 また、繰り返し使用によるロープの劣化(断線・摩耗)を考慮し、定期的な点検・交換計画も立案してください。
【目安】吊り方法による安全荷重への影響(1本ロープ基準)
・目掛け(アイ使用):係数 1.0(基準)
・半掛け(チョーク掛け):係数 0.75(安全荷重が25%低下)
・あだ巻き掛け:係数 0.5(安全荷重が50%低下)
※ 上記早見表は目掛け(アイ掛け)使用を前提とした値です。
使用上の注意・廃棄基準
廃棄基準(クレーン等安全規則 第215条)
いかに安全荷重の範囲内で使用していても、ロープが劣化すれば破断荷重が低下します。 以下のいずれかに該当するワイヤーロープは直ちに使用を中止し廃棄してください。
- ワンピッチ(より1回転)の範囲内で、素線数の 10%以上 が断線しているもの
- 直径の減少が公称径の 7%を超える もの(摩耗・腐食による細り)
- キンク(折れ・ねじれ)が生じているもの
- 著しい形崩れ・腐食があるもの
- 熱による損傷(溶接スパッタ付着など)があるもの
作業前点検を徹底してください
クレーン等安全規則 第220条により、玉掛け用ワイヤーロープは使用前に毎回点検することが義務付けられています。 ロープは目視・触手で全長にわたり確認し、異常があれば即交換してください。
参考文献・出典
- JIS G 3525:2013「ワイヤーロープ」(日本産業標準調査会 / 経済産業省)
- JIS B 8817:2013「玉掛け用ワイヤーロープ」(日本産業標準調査会)
- クレーン等安全規則(昭和47年労働省令第34号 / 最終改正:令和5年)- 第213条・第215条・第219条・第220条
- 厚生労働省「玉掛け技能講習テキスト」(中央労働災害防止協会)
- 一般社団法人 日本クレーン協会「クレーン・デリック運転士テキスト」
※ 本記事の安全荷重数値は JIS G 3525:2013 の公称最小破断荷重をもとに算出した参考値です。 実際の設計・作業計画には、使用するロープの試験成績書・メーカー仕様書を必ずご確認ください。 法令の最新情報は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。

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